老犬の夜鳴き~試してみたい5つのこと
<2021年更新>
老犬の夜鳴きは夜通し止まらず吠え続けることで、ご家族を深く悩ませます。
獣医師30年の臨床経験で多くの老犬を診察、そして何頭かご自分の愛犬を看取ってこられた石川安津子先生から、夜鳴きについて踏み込んだアドバイスをお願いしました。
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石川安津子先生:
長年可愛がって一緒に暮らしてきた愛犬の夜鳴きが続いて眠れない。思わずイラっとしてしまうことも…。それで益々自分を責めてしまう飼い主様と多くお付き合いしてきました。
わたしのおすすめ、それはそこは建設的な対処を考えましょう!ということです。
そこで、少し踏み込んだ視点で夜鳴きについて、獣医師として述べさせていただきます。
1. あなたの愛犬はかなり老犬なのか?
元気なシニア犬かどうかは、精神的な面からチェック
夜鳴きについて考えるときの、初めの一歩。
まず最初に愛犬がかなり高齢であることが原因なのかどうかを押さえましょう。 あなたの愛犬は人間で言えば何歳くらいですか?
愛犬が例えば人間で言えば60~70代の元気なシニアなのか、90代以上のご高齢なのか。このチェックポイントから犬を見てあげることによって、夜鳴きしている原因を絞ることができるかもしれません。
犬のサイズその他で人と犬の年齢換算はいろいろ違ってくるのですが、大雑把に言って ミニチュアダックスの12歳では人の60代前半(元気な老犬) 柴犬の15歳では人の90歳(ご高齢)・・そんなふうにイメージしてみてください。
元気なシニアなのかご高齢なのかによって対応が異なることもあるので、最初にこのポイントを押さえます。
判断の基準としては身体的な事というより精神的な面を重視します。
例えば足腰が弱ってふらつくとしても、飼い主さんと遊ぶことが大好きだったり、おすわりやフセなど知っていることは変わらずにしてくれる場合は元気なシニアです。
反対に足腰が強く散歩は普通に行っていたとしても、おすわりやフセへの反応が遅くなってきたり全く反応しなかったり、飼い主さんとの遊びや一緒に過ごすことへの反応・意欲がなくなってきた場合はご高齢の範疇に入ってきていると思います。
そんな風にとらえてみましょう。
2. 夜鳴きを続ける原因を絞ってみよう
老犬の夜鳴きの原因として次の5つが考えられます。
① 認知症など脳や精神の疾患
② 体の痛みによるもの
③ 視覚・聴覚などの衰えからくる不安
④ 食餌・排泄の要求
⑤ 寝たきりによる生活リズムのずれ 体内時計のずれ
あなたの愛犬が元気な老犬なのか、高齢な老犬なのかによって考えて行きます。
元気な老犬
③や④のお腹が空いた・トイレに行きたい・不安からかまって欲しいなど要求があって夜鳴き続けることが多い。
自分の欲求をきちんと理解して!と、要求吠えし続けていることが多い。
ご高齢な老犬
①②⑤の体の痛みの表現・昼夜の逆転など体内時計の狂い・認知症の症状
といった、具体的な原因をつかみにくい事例が多い。
言い換えれば具体的な原因はつかみにくいが、本能からくる欲求で吠えているのでその原因を探る形になる。
あなたの愛犬はどうでしょう。
なんとなく夜鳴きの原因がつかめそうですか。
3. ベストの解決は
正論は 夜鳴きはかかりつけの獣医さんにご相談すること。
病気でもないのに動物病院?
と思われるかもしれませんが、あなたの愛犬は加齢により体が変化してきています。
人間も高齢による体の不調は病院に行きますよね?高齢による体の不調が様々だからこそ、医師の診断を仰いで少しでも楽になろうとします。
これは犬も同じ!老犬になれば体の不調をかかりつけの獣医さんに相談しましょう。
とはいえ、なかなか動物病院に足を運ぶ第1歩が踏み出せない方が、こうやってネットで情報を見ているのだろうとも思っています。
時間がない方なら特に、「愛犬の夜鳴きに悩む」→「自分でできることからやってみる」→「それでもダメなら病院へ」、でいいじゃない!
実はこれは遠回り。その間も老犬の夜鳴きは続くわけですよね。
これがなぜ遠回りな問題解決法なのでしょうか。それは
夜鳴きの原因:
①認知症
②体の痛み(慢性痛)
に関しては、 やっぱりかかりつけの獣医さん。
飼い主さんでは判断しきれないことが多いから!
特にご高齢のワンちゃんの夜鳴きは、まず動物病院にご相談することをお勧めします。
喋ることができない彼らの痛みやその他の病気など原因を見つけてあげることができるかもしれません。
4. 夜鳴きする犬に「できること」をしよう!
元気なシニアではなくご高齢のワンちゃんに関して;
愛犬が若い頃は「夜、要求吠えしていたら無視してください!」と言われることが多いと思います。行動学上も、
「吠える→飼い主さんがくる→益々吠える」
という正の強化をしちゃうことになります。
でも高齢犬の要求は一概にすべてこれに当てはまるとは言い切れません。
認知症を発症するほどの犬であれば行動学の法則は成り立ちません。
行動→よいことが起きる→益々その行動を行う
のではなく
行動→よいことが起こった・悪いことが起こったの判断すらできないんです!
叶わなくて不快に思っていること ・・・「食べたい・トイレに行きたい・体の向きを変えたい・あなたのそばにいたい」
を一通り叶えてあげることが必要なのです。
不快に思っていることがなんだかわからない時は、本能からくる欲求を満たすことから始めるとよいでしょう。
本能の欲求:「食べること・排泄・痛みから逃れること・寒い暑い・動きたい」
<具体的には>
食べたい~自分ではうまく食べられなくなっているから、
- 食べやすい柔らかいフードなどに変える
- 角のない丸い食器にする
- 手伝って食べさせてあげる
排泄~柴犬などは最後まで外で排泄したいことが多いので、
- できる範囲で連れ出して排泄させてあげる
痛み~寝床が固く寝にくい・どこかが当たって痛い、なのに寝返りできない、ますます痛いから
- 介護用マットを使ってみる
- クッションなどで工夫してみる
寒い・暑い~若い頃より感じ方が変わってくるから
- 室温に気をつけ、快適な室温を探す
動きたい~
- 夜中でも介護用品を使って散歩させる
- 老犬用のマッサージやTタッチなどで体に良い刺激を与える
などなど夜中にいろいろ試すのは辛いかもしれませんが、要求に答えられるかできる限りでよいので工夫してみましょう。
注意!:ただし元気な老犬はこれにあてはまりません!
「吠える→飼い主さんがくる→益々吠える」の悪循環に陥らないように注意してください。
若い頃とは違い、老犬になると体の中に感じる変化も多岐に渡ります。
この機会に、老犬と生活する基礎知識を総合的にカバーしている、「老犬介護」のページもぜひご一読ください。
5. 老犬の認知症への対応
認知症は脳の細胞が変化してしまう病気です。
悲しいことですがあなたの愛犬が認知症の場合、今までの信頼関係をそのまま当てはめることはむずかしいことが多いです。 愛犬は正しい反応、つまりいろいろなことを認知することができなくなってきます。
そして「意味もなく夜なきつづけること~夜鳴き」もそのひとつです。
あんないい子だったのに、夜鳴きが止まらない…という思いがあなたを苦しめるかもしれません。
認知症は病気なのだと思ってあげてください。
認知症については、多くの症状を詳しく述べているサイトが別途ありますのでご紹介いたします。
詳しくはこちら>>>
老犬の認知症からくる夜鳴きは 昼夜逆転と一緒である場合が多いようです。昼はよく寝ていて夜寝ずに一本調子で鳴き続ける・・・。
認知症からくる夜鳴きの場合、この「一本調子で単調に鳴き続ける」事が、夜鳴きの判断をする助けになると思います。老犬の夜鳴きとは感情のない鳴き方です。
多くの場合、何故か飼い主さんが眠りにつく時間帯から早朝まで、一番静かにしていてほしい時間に夜鳴きは起こります。鳴き続ける時間はそれぞれで違いますし、 一旦止んだと思ってもまたしばらくすると鳴き出すということを繰り返すこともあります。
※ 短時間鳴く場合は、悲鳴のような鳴き方をすることもあります。これも認知症からくる夜鳴きの特徴です。
このような夜鳴きの対応としては生活リズムを整えることから始めます。
昼は短時間でも数回散歩に連れ出す、動けない犬はマッサージや体の向きを変えるなど体を動かす助けを数時間おきにやってあげるなど良い刺激を与えてあげます。
逆に夜は暗くして静かな場所で過ごさせます。
わたしの臨床経験上、この方法でなんとか夜鳴きから抜け出せることもありますが、中には何をしても続くケースもあります。
飼い主さんが、止まらない夜鳴きに心労のあまり健康を害してしまうこともあります。そこまで頑張る前に、かかりつけの獣医さんにご相談することを強くお勧めします。
対応その2はお薬やサプリを使うこと
寝てくれず吠えているから睡眠薬を使用してほしい・・
そう思う方は多いと思います。
認知症は病気ですから、お薬を使うことによって改善することもあります。
この時、かかりつけの獣医さんに相談しましょう。なぜ「かかりつけ」を強調するかというと、お薬の処方は慎重に行うべきだからです。
獣医師の立場から言えば、あまり馴染みのない患者さんから突然「夜鳴きするのでうちの犬を眠らせる睡眠薬ください」と言われてすぐに処方する事はほとんどありません。 かかりつけの獣医さんがいることはこういう場合にもとても安心です。
よく知っているワンコさんの場合、ご相談を受けその犬の年令や今までかかった病気・現在の健康状態など様々なことを加味し、また飼い主様の心情や健康状態も慮ることができます。 そして薬の助けが必要だと判断した時初めて処方することになります。
では、老犬の夜鳴きにはどんな薬をだすのでしょうか。
1,抗不安薬のような犬にも承認された動物薬を使う場合
2,睡眠導入剤のような人間の薬を犬に使う場合
1の場合は効果が現れるまで少なくとも2週間以上投薬を続ける必要があります。不安感をなくして夜寝てもらう事を目的とします。
2の場合はいわゆる睡眠薬ですからすぐに効果が出ますが、よく効く犬と薬を多くしないと効かない犬など個体差が大きいのがむずかしいところです。 また効果が一定ではなく必要量が増えてしまったり、続けて使う場合副作用の心配もあります。
獣医師の立場からは、そのような事をざっくばらんにご相談いただいて、よく話し合って決めるのが一番だと思っております。
お薬に抵抗がある場合は、サプリを
夜鳴きに薬を使用することにに抵抗のある方は認知症のためのサプリメントをお勧めします。 夜鳴きに関してはサプリメントで良い感触を得られることがあります。サプリメントはあくまで補助ですので「夜鳴きに効きます」のように効能をうたってはいけないことになっています。
それでも夜鳴きが続いて飼い主さんの悩みでいっぱいになりそうな場合:
最終手段として、数日動物病院に入院させるという選択肢もあります。
飼い主さんが毎晩ぐっすり眠ることができず心労で健康を害す前に、その選択をするのも必要なことだと思っています。
数日ぐっすり眠ることで飼い主さんが元気を取り戻すことも認知症からくる夜鳴きの対処法のひとつです。
以上5つのことをあげてみました。
あなたとあなたの愛犬の夜鳴き問題が少しでもよい方向に向かうことを願ってやみません。
そして 最後に・・ 現在、認知症になっていない元気なシニアの場合
今から始めるとその予防になることもいろいろな情報としてあげられています。認知や夜鳴きに悩むようにならないため、「「老犬の認知症予防 今からしておくべきこと」石川先生のお勧め」をぜひ一度お読みになってみてください。
本文に関わる参考リンク:
「愛犬のために選ぶ動物病院」… 今からでも遅くない!自分に合った動物病院の選び方
「老犬介護」…元気なうちから介護、看取りまで
老犬のケアを助けてくれるプロを探す「犬のプロに相談〜老犬ケア」
本文:獣医師 石川安津子