犬にチョコレートは命取り、の実態
犬がチョコレートを食べて死んでしまったと言う話を聞いたことがありますか?
好きな人にはたまらない誘惑、美味しいチョコレートですが、犬にとってチョコレートは、命を落とす危険がある毒なのです。
実際にあった、こんな話を聞いたことがあります。
ゴールデンレトリバーと暮らしていらしたあるご家族。おうちの食品庫にはファミリーパックのチョコレート菓子をしまっていたそうです。愛犬は留守番中になぜか食品庫の中にあったチョコレート菓子ファミリーパックの中身全てを完食。命を落としたそうです。
犬はチョコレートを食べてなぜ死んでしまうのでしょう。また、どのくらいの量であれば大丈夫なのか?そして、いざ犬がチョコレートを食べてしまった時、私たちに何ができるのでしょうか。
さっそく「犬と暮らす」監修の獣医師、石川安津子先生に詳しく聞いてみることにします。
犬がチョコレートで死んでしまうメカニズムと症状
犬と暮らす:
「犬はなぜ、チョコレートを食べると死んでしまうのですか?」
石川先生:
「犬がチョコレートで死んでしまうのは、チョコレートの中に含まれる『テオブロミン』という物質のためです。
(テオブロミン https://www.health.ne.jp/glossary/detail?id=104019)
人の場合このテオブロミンが含まれることは利点としてあげられ、健康によいとも言われています。ところが犬の場合は真逆、体のなかでテオブロミンを分解するのにとても時間がかかるため中毒をおこしてしまうのです。そして中毒からくる痙攣により命を落としてしまう場合が出てきます。
詳しく言うとテオブロミンは犬の体の中で、
中枢神経を興奮させる作用
心臓を活発にさせる(強心)作用
おしっこを作る作用
骨格筋が強く収縮する作用
などを起こします。つまりたくさん食べることでこれらの作用が強く現れて中毒としての症状となるわけです。
症状として、下痢や嘔吐、脈が早くなるなどです。」
犬の症状を、素人である家族が確かめる方法
犬と暮らす:
「下痢や嘔吐は変なものを食べてしまうと、よく出る症状ですよね。
脈が早くなるとは、胸を触ると心臓が大きくドクンドクンいう感じでしょうか。それから暴れたり、吠えたりということもあるのでしょうか。」
石川先生:
「犬の脈を見るのには、心臓のドクンドクンが大きく速くなるのを、一般のご家庭ではワンちゃんの胸を触ることで確かめられますね。
<中枢神経の興奮作用>は、人間でいうコーヒーの飲み過ぎでギンギラギンになった状態を思い浮かべてください。その犬バージョンです。
ですので、ワンちゃんによっては「吠える・暴れる・破壊行為や咬みつき」の症状が出るかもしれません。
そして、食べた量が多い場合は中枢神経の興奮がひどくなり痙攣して死んでしまう場合も出てきます。つまり人と違ってチョコレートの中に含まれる物質が分解されるのにとても時間がかかる、体の外に追い出すのに時間がかかる為に中毒してしまうということです。」
犬と暮らす:
「私たちには魅惑のチョコレート、しっかりテオブロミンを分解してくれるから美味しくいただけるのですね。ところが犬はテオブロミンを分解されるのに時間がかかるため、作用が体の中で暴れてしまう、つまりチョコレート中毒を起こして、最悪の場合は死んでしまうということでしたか。とても苦しそうです。
それにしても、人間がいろいろなものを食べている時、犬はチョコレートにも興味を示して欲しがるようですが、美味しいのでしょうか。」
石川先生:
「犬の嗅覚が優れているのはご存知かと思いますが、確かに体に害のあるものは本能的に嗅ぎ分けて気づくこともあるかと思います。また経験的にこの匂いのものを食べたらよくないことが起こった(苦い・気持ちが悪くなったなど)といった経験則で匂いから体に害のあるものを嗅ぎ分けることも多いと思います。
反面、犬は甘いものが大好きです。舌にある味覚を感じる組織を味蕾といいますが、犬では甘いものを感知する味蕾の数が一番多いとされています。そのため甘いものが好きなのですね。チョコレートは人間が食べてもかなり甘いですよね!だからテオブロミンの苦味より甘い砂糖の味や香りが勝って食欲を刺激されてしまうのかもしれません。」
犬と暮らす:
「犬は甘いものが好き!それは知りませんでした。おいしそう!と思うとパクッと行くワンちゃんは要注意。私たちはチョコレートを食べる時に気をつけないといけないですね。」
チョコレート危険域の量:致死量と犬のサイズの関係
犬と暮らす:
「気をつけていても、小さなかけらでもチョコレートを食べてしまったらもう死んでしまいますか?例えば、どのくらいの量が致死量なのですか?
大型犬はファミリーサイズのチョコレート菓子かもしれませんが、5キロ以下の小型犬はどうなのでしょう。チョコレートを食べると危ない分量の目安はありますか?」
石川先生:
「テオブロミンの50%致死量(その量を食べると50%の犬が死んでしまう量)は、犬では100~200mg/㎏といわれています。2㎏のチワワで200~400mg、5㎏のトイプーやダックスさんで500~1000mgのテオブロミンを食べると死んでしまうことがあるわけです。
料理用のチョコ | 15mg/g |
ダークチョコ | 5mg/g |
ミルクチョコ | 2mg/g |
ホワイトチョコ | 0.05mg/g |
バレンタインデー手作りチョコは気をつけて!!
一方 チョコレートの種類によって含まれるテオブロミンの量がかなり違ってきます。 つまりチョコの種類や食べた量によっても違ってくるわけです。一番ポピュラーなミルクチョコの板チョコ1枚は50gくらいです。 さらに注意しなければいけないのは!料理用のチョコレートはダークチョコの3倍ものテオブロミンが含まれていることです。これからバレンタインデーめざし、チョコ作りをする機会が増えると思います。ホンのひとかけらでもチワワさんには命取りになる可能性があります。
お菓子づくりをしているとき、ポロ!とこぼれた料理用チョコレートが命取りになるからです。
数字がいろいろ並んでこんがらがっちゃったかもしれませんが、ミルクチョコレートとダークチョコレートを例にとりましょう。
大体の目安として(注意!個体差があります)
ミルクチョコ | ダークチョコ* | |
命の危険 | ||
2kg 超小型犬 | 4枚 | 1枚 |
5kg 小型犬 | 9枚 | 2枚 |
10kg 中型犬 | 18枚 | 2枚 |
軽度の中毒 | ||
2kg 超小型犬 | 半分 | 1/5枚 |
5kg 小型犬 | 1枚 | 半分 |
10kg 中型犬 | 2枚 | 1枚 |
*料理用チョコレートならダークチョコの1/3の分量!
以上あくまで目安とした大雑把なものであることに注意してください。この後に述べますが、犬によっては個体差があります。
そこまで食べてないから大丈夫ということにはなりません。そもそも中毒量は幅のあるものなのでここまでは大丈夫とは決して言い切れません。」
犬と暮らす:
「板チョコであればなんとなく目安がわかってきました。ミルクチョコレートなら案外大丈夫と言う印象を持ってしまいそうになったところで、「個体差」とか「中毒量は幅がある」の言葉がちょっと引っかかります。
また、必ずしも板チョコとは限りません。チョコレートケーキや箱に入ったチョコレート菓子などは、料理用チョコレートくらいテオブロミンの含有量が多いのか、わからないことが多いです。
それでは、もしチョコレートを食べてしまった時に私たちができる応急措置はありますか?または、絶対にやってはいけないことはありますか?」
犬がチョコレートを食べてしまったらすること
石川先生:
「食べてすぐなら速やかに動物病院へ連れて行ってください!その際 食べたチョコの種類(ミルクかブラックかなど)とどのくらい食べたかを確認してください。
病院では催吐処置・吸着薬の投与、場合によっては胃洗浄をし、その上で出て来る症状に対処できるよう入院になります。テオブロミンを中和するような薬はありません。症状が出た場合はそれに対する対症療法しか打つ手はありません。」
(犬と暮らすは、普段から夜間病院を調べておき、そこへ連れていくことを推奨します)
様子を見るのが命取りに
石川先生:
「注意したいのは、ほんのちょっと食べただけとか食べた量がわからないからと様子を見ていて、その日なんともなければ大丈夫と思いがちなこと。テオブロミンの排泄には時間がかかり血液から完全に無くなるまで3~4日かかるともいわれています。それ以上経たなければ本当に大丈夫とは言えませんので要注意です。」
犬と暮らす:
「絶対にやってはいけないのは様子を見るとして時間が経ってしまうこと… とにかくすぐに病院ですね!確かに様子を見ていたら死んでしまったという恐ろしい話も聞いたことがあります。
チョコレートを食べて措置によって助かった犬でも、障害が残るようなことはあるのですか?
石川先生:「テオブロミンが排出されれば回復に向かうことが多いです。すなわち5日以上すぎれば安心なことが多いです。後遺症が残ったという例を私は聞いたことがありません。」
なんともなかった犬もいますか?
犬と暮らす:
「犬にチョコレートがどれだけ恐ろしいのかわかりました。一方で、チョコレートを食べても何ともなかった、なんて嘘みたいな話も聞きます。体質によって個体差はありますか?
石川先生:
「はい。同じ量を食べても中毒をおこす犬とおこさない犬がいるので、その犬の体質によって個体差があると言えると思います。
またテオブロミンの排出は腎臓で行われますので、腎臓の働きが衰えている高齢の犬では症状が強く出たり長引く恐れはあるかもしれません。高齢犬に多い心臓の弁膜症の犬などは心臓に負担がかかるので重症になる可能性が高いともいえるでしょう。」
犬と暮らす:
「高齢犬は、特に気をつけてあげたいですね。どうもありがとうございます。
まとめますと、
- 犬がチョコレートを食べて命を落とすのは、人と違って『テオブロミン』という物質を分解するのに時間がかかり、中毒症状が出るから
- 主な症状は、下痢、嘔吐、心臓のドキドキ、過度な興奮状態など
- ただし、症状が出るまで時間がかかることが多いので「大丈夫」と決めつけない
- 食べたら、たとえ症状が出ていなくても動物病院へ→様子を見ていて命を落とした例があります
最後に、チョコレートと同じくらい、犬が食べると命取りになる食材を教えてくださいますか?」
チョコレートと同じくらい命取りになるのは
石川先生:
「命取りになる恐れのある食材としては
- 玉ねぎ 長ねぎ
- ぶどう・レーズン
- キシリトール
などがあげられます。
<玉ねぎ・長ねぎ>
玉ねぎ・長ねぎに含まれる化学物質によって、血液の中の赤血球が壊されて貧血を起こし、ひどい場合は死に至ります。悪いことにこの物質は熱を加えても粉末にしても壊れません。玉ねぎたっぷりのスープ・すき焼きの残りものなどうっかりすると与えてしまいがちなので要注意です。
同様にニラ・にんにくも中毒を起こしますが、多量にこれらを食べてしまわない限り症状を起こすことはまれです。
どのくらい食べたら危険?
15~30g/㎏で症状が出るといわれています。玉ねぎ1個は中位の大きさで200gですから、5㎏のトイプーさんなら玉ねぎ半分位食べてしまうと危険です。生の玉ねぎ半分はとても多く感じますが煮込んだらごく少量なので気をつけましょう。
<ぶどう・レーズン>
原因がはっきり特定できていませんが中毒をおこすことで知られています。品種に関係なくいろいろなぶどう・レーズン(干しぶどう)で中毒をおこす事があります。下痢・嘔吐から始まり重症の場合急性の腎不全を起こして死に至ります。膵炎を併発することもあります。甘いぶどうが大好きな犬はたくさんいると思いますが中毒をおこすことがあるのは知っておいた方がよいでしょう。
どのくらい食べたら危険?
犬によって違ってくるのですがぶどうで30g/㎏、レーズンで11~30g/㎏で中毒をおこすといわれています。巨峰でひと粒20g位ですから5㎏のトイプーさんなら7粒以上食べてしまうと危険です。ぶどうの皮を食べて中毒を起こした例もありますから、犬のいる家庭では食べたものはすぐに片付ける習慣をつけたいですね。
<キシリトール>
犬は人と違ってキシリトールを食べるとインシュリンを分泌させてしまいます。さらに悪いのは食べたキシリトールすべてが速やかに吸収されてしまうことです。インシュリンは血糖値を下げるホルモンですので、低血糖を引き起こしひどい場合は痙攣して死に至ります。
どのくらい食べたら危険?
よくガムやアメに含まれていますが、含まれている量は商品によって様々です。その商品の成分表からどの位含まれているか調べます。歯科用のキシリトールガムですと100%含有です。犬では0.1g/㎏食べると低血糖を起こすと言われているので、5㎏のトイプーさんなら0.5g以上食べてしまうと危険です。ふつうのガムで1粒が1.5g位ですので、ガム1粒食べてしまうととても危険!ということになります。」
私たちの家庭では何気なく置いてある、普通の食物でも犬には死に至るほどの毒を持つものは何か。普段から知っておいて気をつけるだけでなく、そのメカニズムを知ることでお役に立てたでしょうか。
愛犬がチョコレートを口にしてしまったら、すぐに動物病院へ!
この記事が、多くの犬と暮らすご家族の安心をもたらしますように願っています。
本文:「犬と暮らす」武田裕美子
獣医学記述と監修:獣医師 石川安津子
(石山動物病院)