犬が取り残されたとき、誰が助けるのか
犬と暮らす中で、自分にもしものことがあった時に守ることができますか?
働き盛りが突然倒れた時、愛犬を救い出せない
老犬と一人暮らしをするまだ40代の人に、これは本当にあった話です。
この方、ワタナベさん(仮名)は、つい3ヶ月ほど前に仲間と会った時は元気で会食していたのですが、ある日仕事先で突然倒れて危篤状態になったのです。
老犬が、ワタナベさんの家で取り残されている!
仲間同士ですぐさま調べたら、ワタナベさんの実家は誰も犬を引き取りたがっておらず、今は獣医さんに預けられているらしい。ワタナベさんは意識不明のまま何日も経っています。
愛犬は、ワタナベさんにも会えず自宅とは違う環境で、どれだけ心細くストレスが溜まっていることだろう。心配でいても経っても入られません。法律上、本人の意思がない限り赤の他人は犬を保護できません。
この場合のように、本人の意識が戻らないうちはこの意思確認ができません。
もともと犬好きで知り合った仲間。老犬の域に入っているワタナベさんの愛犬を昔からよく知っている友人たちは、自分たちの誰かが引き取りたいと考えます。しかし、家族ではなければ法の厚い壁が立ちふさがり、会うことすらできません。
ワタナベさんの家族や親戚が誰も老犬を引き取らないと、その命はそのまま地方自治体に委ねられてしまうのです。すなわち殺処分か、命を救われてもどこかの保護センターに送られ、もしかしたら追跡するのは至難になる可能性もありました。
老犬は、愛護センターでもなかなか里親が見つからないといいます。老犬にとっては、新しい環境は過度なストレスにもなるでしょう。
もし自分がワタナベさんだったら、どれだけ不安で心を傷めることでしょう…
その後ワタナベさんは、残念なことに一度も意識が戻ることなく息を引き取ってしまいました。
友人たちは、なんとかあらゆる手続きを踏みながら、最終的にはワタナベさんの愛犬を引き取ることができたそうです。老犬が、飼い主が突然死した後に、よく慣れている家族に新しく迎えられることができた。これは運よくうまく行ったケースだと言います。
犬は法律上、人の「持ち物」。亡くなった方の「持ち物」に、他人がコンタクトを取った上で最終的に引き取ることができるとは限らないそうです。
増加する高齢者飼い主が遺棄する犬たち
にわかにピンとは来ない話ですね。一方で…
高齢の親が犬と暮らしていたが、死別や施設に入ることになったため犬を手放すことになった。しかし、子供たちは住宅事情や家族の理由で引き取れない。
このような事情で犬が遺棄されるケースが昨今増加中だと言います。悲しいことに、自治体によっては高齢の飼い主が飼いきれなくなったことが殺処分される理由のナンバー1だそうです。
ゆっくりと進行していく認知症。愛犬の散歩やシャンプーだけでなく、いつ給餌をしたかさえ覚えていない。そのため周囲が気づいた時には、犬の健康状態が危機的な状況になっている。
このような問題も増加中だと言います。
それでも法律上はその飼い主さんの「持ち物」ですから勝手に取り上げることはできません。
愛犬を守る方法はなんでしょう。
まず大切なのは、飼い主である自分が自覚すること、そして行動を起こすことです。
自分にもしものことがあるかもしれない。
そして想像します。もしものことがあったら、愛犬はどうなるだろう。
自分がもしもいなくなってしまった後、愛犬にどのように過ごして欲しいだろう。
どんなことが可能なのだろうか。
いよいよ行動を起こすのですが、そこでご紹介したいのがペット法務です。
突然、万が一のことが起きてしまった時に、愛犬が長いこと放置されてしまう。ともすれば、最悪のことを避けるために、あらかじめ法的に、たとえば赤の他人であっても愛犬を託すことができるように手を打つことができるのです。
ペット法務は、高齢の親が犬を飼っているという方にもぜひご紹介したいと思います。
意外に難しくない!法律で愛犬を守る選択肢
そこで、神奈川県でペット法務をご専門に活動されている行政書士の田代さとみ先生に聞いてみました。
まず、自分にもしものことがあった時、ペットをどのように守るのかを考えるにあたり、いくつかチェックポイントがあるそうです。
愛犬を守れるかどうかのチェックポイント、主なものを挙げてみます。
- 信じて託せる人がいるか
- どのくらいペットに財産を残せるか
- 自分に判断能力や身体の自由が効かなくなった時どうするか
この3つのポイントを考えるだけでも大きく前進してきますね。
特にB. の残せる財産についてはその幅によっていくつか選択肢があるそうです。
田代先生は5つの選択肢があるとおっしゃいます。
- 遺言
- (生前もしくは死因)贈与契約
- 信託
- 後見
- 保険
「契約」や「信託」という言葉を見ると専門的で難しそうに見えますが、そこは大丈夫。
田代先生はご夫婦で14歳になる愛犬リッキーくん、猫のジロくん、レオくん、ハルちゃんと暮らし、以前はペットシッターをされていたそうです。
ですので、どうぶつと暮らす家族と同じ目線で相談に乗ってくださいます。
たとえば、愛犬の細かい特徴などを愛情を込めて新しい飼い主の方に残す「エンディングノート」。必要であれば代筆をしてくださるなど、きめ細かい配慮が感じられました。
今すぐは必要ない、というご家族も、もしもの時に一緒に暮らす愛犬を守る法務のプロに頼ることができる。
そう知っているだけでも心強いことではないでしょうか。
田代先生のプロフィールは現在準備中です。もっと詳しいことを知りたい方は、こちらが事務所のホームページになります。
→「行政書士横浜中央合同ハル事務所」
本文:「犬と暮らす」武田裕美子
アドバイスと監修:行政書士 田代さとみ