保護犬 ハッピーをくれた犬たち | Life with My Dog 犬と暮らす
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保護犬 ハッピーをくれた犬たち


保護犬。
テレビやネット記事だけで聞いたことはあっても、それは未知の世界であり、可哀想、よくわかりません。当初、持っていた保護犬のイメージでした。保護犬=不幸な犬たちを助けるようなことをしてみたい。どこかでそんな興味を持っていながら、保護犬とはどこか遠いところに隔離されている存在。そう思っていたのです。

単身赴任という生活に入ることになったとき、自由時間を使って保護犬の世話をするボランティアをやってみよう。外国ではあったのですが、そう決意して飛び込んでみたのが2015年早々のことでした。

ボランティア初日
最初の関門は、保護犬ボランティアのための事前オリエンテーションに申し込む。
なんと待つこと3ヶ月。その人気の高さに驚きながら、ついにその日がやって来ました。どんな犬たちが待っているのだろう。ワクワクしながら初めて行くその場所に行き着いてみると…

生まれて初めて到着したシェルター。そこは商店街のはずれにある店舗のような場所。ドアを開けると、鼻につく臭い。部屋のほとんどを占めるサークルの中に、フリーにされていた保護犬たちが、一斉にくーん、きゃんきゃん、と寄ってきました。

ミックスの子犬、トイプードル、チワワ、シュナウザー、シーズー、ポメラニアン、コッカースパニエル…

鼻についた臭いよりも、寄って来てくる犬たちのあまりの可愛さに思わず心がとろけそうになってしまいました。数人の新入りボランティアである私たちのためのオリエンテーションの話を聞きながら目線はつい、甘えてくる犬たちの方に行ってしまいます。

まずは全員で散歩コースを覚えることも兼ねてお散歩行きましょう、となりました。
私が担当したのは保護されて間もないポメラニアンの女の子。 大変怖がりで臆病な子なので、最初は抱っこして歩いてください、との指示でした。
さっと抱き上げてみると、これまで触れたことがない大きさや毛並みの犬種。
それはそうです。これまで自分が一緒に暮らしていた愛犬は短毛種。体重はこのポメラニアンの3倍以上もあります。手触りから何から全く違います。
震えるほど怖がる犬も初めて。ドッグランでなんとか他の保護犬と走り回るも、ちょっとでもクンクン匂いを嗅ぎにくる犬がいると、怯えて私に抱っこを求め飛びつく有様でした。なんて可愛いんだろう。

翌日から仕事に戻っても、この子のことをふと思い出し、早くまた会いたいと思うようになりました。しかし、このポメラニアンは3日後、新しい里親の元に迎えられていました。ですので、それ以来会うことはありませんでした。

保護犬施設ではお掃除が行き届いて居ます。それは、お掃除さんが来てくださっているからです。
犬がもし、サークル内で粗相をしたらすぐにボランティアが拾います。とはいえ、ボランティアの一番のお仕事は、できるだけ多くの犬たちとお散歩すること!とにかくお散歩に連れ出しては戻り、また次の犬を連れ出しては戻ります。

最初、鼻についた臭いは、長年多くの犬を収容してきたために取れないものだったようで、我慢がならないほどではありませんでした。

毎週日曜日、こわごわ、ワクワクしながら行くたびに新しい犬がいました。毎回毎回、自分の愛犬とは全然違う犬たち。だんだんと忘れられない犬たちと出会うようになります。

トイプードルミックスのジョニーくん
まだボランティアの日も浅い頃、新入りの保護犬ジョニーくんを散歩に連れ出したました。リードを持って歩くと、お散歩をしたことがないとすぐにわかりました。リードを嫌がり、まっすぐ歩きません。放浪していたところを保護されたそうです。怖がりはしませんが、甘えてくることもしませんでした。毎週、ジョニーくんのお散歩をしているうちに、どんどんお散歩が上手になっていきました。

まだ若くて運動量が必要なジョニーくん。ボランティアの先輩たちは、私がジョニーくんを気に入っていると察して、必ず「ジョニーのお散歩はあなたね」と笑顔で私に促してくれるようになったのです。

そうしてある平日の日。
仕事のためボランティアには行かない日でしたが、SNSにジョニーくんに新しい里親が決まったという投稿が載っていました。新しいお父さんは、ハイキングが大好き。一緒に山を登れる元気なジョニーくんを一目で気に入ったそうです。新しいお父さんと写真に写っているジョニーくん。

その顔はまるで別の犬でした!! 

私が決して見たことがない。目はキラキラと輝き、顔は笑顔。あの無表情だったジョニーくんは、こんなに明るい笑顔を見せることができる犬だったのか。私の愛情はなんだったのだ!?と思いかけた時、気づきました。そう、私は1週間に一度だけ散歩をしにくる人間。家族としてずっと迎え入れる気持ちではなかった。
ジョニーくんにはわかったんだね。この男の人が家族になったことが。
保護犬施設に来たばかりの時は、あれほどお散歩ができなかったジョニーくん。わずか2ヶ月くらいでしたが、ハイキングに行けるほどに人間と一緒に歩けるようになったことが、なんだか誇らしくもありました。


犬たちはわかる!家族になることが
それから、私は何度も同じ経験を重ねていきました。どれだけ保護犬施設やお散歩で私たちに甘え、嬉しそうな顔を見せていたとしても、終の里親さんが見つかった時、犬はこれまで見せたことがないほど嬉しそうな顔をするのです。
「ああ、この人は自分を家族として迎えてくれるんだ。毎日一緒。これからはずっと甘えていいんだ」
そう、わかるのでしょうか。

お散歩で引っ張ってばかり。いつも眉間に深いシワを寄せ、神経質な顔をしていたモンゴル犬のマチルダ。柴犬より大きめの、黒い美しい雌犬でした。
いつものように散々引っ張られて、落ち着きのない散歩を終えた同じ日の午後のことです。新しくワンコを家族に迎えたいと、親とやってきた小学生の男の子。マチルダを一目見て、「このワンコだ!」と目を輝かせました。
こうして新しい家族の元に行くことになった時。午前中に私と散歩をしていた時とはすっかり変わって穏やかな家庭犬の顔。シェルターを出る前の記念写真。男の子の横で笑顔でおすわりをするマチルダは、まさに違う犬に変貌しました。

シェルターには、ブームで人気になった犬種の犬が手放されてやってくることが頻繁にありました。
ミニチュアシュナウザー。人気があるので、すぐに家族が見つかるのですが、それでも次から次へとレスキューされてきました。

写真は、ヤキモチ焼きで、ボランティアの注目を集められないと悲しくて鳴いていたシュナウザーくんです。それが、里親さんが決まって、新しい家族の元に行く時は羽が生えたように嬉しそうでした。またその1ヶ月後に送られて来た写真では、思いっきり甘えん坊の顔をしてクッションの上で笑顔を向けていました。
ボランティア冥利につきる瞬間でした。

これは、私が香港に単身赴任していた時の経験、保護犬ボランティアのほんの一部です。国は違えど、保護犬たちは同じです。

家族を待っているのです。

施設にいる時、どの犬も皆入り口だけを見ています。犬たちは入り口のドアに顔を向けて誰かを待っています。

 

人が入ってくれば一斉に甘えに行きます。そして、ついに里親が決まると、本当に嬉しそうに、これまで見せたことがないほど幸せな顔になるのです。
新入りの保護犬と一緒に散歩をし、やがて旅立って行く。すぐの犬もいれば時間がかかる犬もいましたが、毎回、「あのワンコは里親が見つかった!」そう聞くたびに、ちょっぴり寂しい「ロス」感とともに、とても嬉しくハッピーになったものでした。

香港の赴任が終わって、保護犬ボランティアとお別れする日が来ました。
ほどなくして日本に帰国し、一時預かりをしている方々のお話しを何度か聞くようになりました。日本では、施設で犬を集めるより一時預かりの方が多いように思います。やはり、里親さんが決まると、これまでと違ういい表情になるそうです。


日本で根強い保護犬のイメージ
保護犬は懐かない。
犬は子犬から飼わないと人間に馴れない。
保護犬って怯えたまま、固まっているなど問題行動がひどい犬のことでしょう。

このイメージはどこから来るのでしょう。不幸そうなイメージが強いと思いませんか?
実際はそうではない犬の方が圧倒的に多いのに。犬たちは、もともとハッピーな存在です。保護犬たちが最もハッピーになれるとき。それは大好きな家族と暮らすこと。 

本当は「保護犬」と呼ぶことは、可哀想な犬というレッテルを貼ることになりはしないか、そう思うことも少なくありません。
確かに、中には不幸な経緯で最初の飼い主さんのもとを離れた犬もいるでしょう。しかし「保護犬」は、犬種でもなければ総じて呼べるものではありません。犬はそれぞれ、個体別にキャラクターも体格も違います。暖かい家族に迎えられて、笑顔でハッピーになれる犬がとても多いのです。


ペットショップ以外の選択肢の一つ
新しく犬を迎えたくても、何年も育てることができない。あるいは、子犬時期の間、頻繁にご飯をあげたりトイレのトレーニングをできるほど長時間犬のために家に居られない。そんな時に、保護犬を検討してみることを選択肢に加えることはできないでしょうか。

もちろん、どんな保護犬でも、すでに家庭犬として完璧にしつけが行き届いているとは限りません。過去のトラウマから何かしらの問題行動がある場合もあるでしょうし、万全に健康ではない犬もいます。多頭飼いになる場合は先住犬との相性を考えることも含め、新しくペットを家族として迎える時、どこから迎えるにせよ様々に検討する必要があることはどんな場合でも同じだと思います。
(例えば、筆者の住まいは集合住宅で、犬は1頭までと決まっています。ルールを破ってまで迎えるような無責任なことはできません。)

しかしながら、あらゆる検討をしてみて新しく犬を迎えることができる時に、保護犬も選択肢に考えられるとしたら。この記事も参考の一つとして加えていただけたら、これほど嬉しいことはありません。
あるいは愛犬を見送った後、もう新しい犬とまた何年も長く暮らすことはできない。そんな場合でも、一時預かりをしてその保護犬が新しい家族と出会うまでの間、一緒に暮らすことは考えられないでしょうか。

保護犬はかわいそうでもなければ、不幸でもありません。犬はみんなハッピー。保護犬も例外ではありません。不幸にかどうかは家庭犬と同じ、人間が左右しているだけです。


本文:「犬と暮らす」武田裕美子

(記事中保護犬たちの写真は全て、筆者がボランティア中に撮影したものです。ボランティア先のHong Kong Dog Rescue ではボランティアが活動中に犬の写真を撮影して公開することを全て許諾しています。写真公開の許諾は保護団体によって異なります。)

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