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Life with My Dog 犬と暮らす

なぜ体罰を勧めない専門家が増えてきているのか


「・・・え、犬はおこってしつけるんじゃないの?」

犬を飼いはじめいろいろな情報を集め始めると必ず「罰」ではなく「ほめてしつけるやり方」が勧められていることに気づきます。それは何故でしょうか。

「ほめてしつけるやり方」は科学的な方法です。そのことをきちんと理解している人は少ないかもしれません。動物行動学という学問の中のオペラント条件づけという何だか難しそうな説明がこれにあたります。 ここでは「罰」についても科学的に説明されています。そして その科学的な根拠にもとづいて「ほめてしつけるやり方」は「罰してしつけるやり方」よりも勧められているのです。

例えば トイレでない場所でおしっこをしてしまった犬のことを考えてみましょう。

普通の反応はおしっこをしている時に「何やっているの!!!」と大きな声を出し慌てて犬のところに行って「ダメじゃないの ダメ!」としかるというもの。 ひと昔前は、粗相したところに犬を連れて行き、犬の鼻面をおしっこに近づけてダメ!と言って叩くというのが一般的でした。これが罰してしつけるやり方です。
でもこの方法ではうまくしつけたと思っても、実はカン違いであることが多いのです。

犬は自分の行動の結果 嫌なことが起こるとその行動をしなくなります。それが罰によるしつけ~ 専門的には正の罰 といいます。
この場合の行動は「おしっこをする」こと。犬は「おしっこをすると嫌なことが起こる」と理解するわけです。でもおしっこをすることは止められない。だから隠れてするようになる場合もあります。

さらに悪いことに「おしっこをする」という行動の結果で嫌なことが起こったと結び付けられない事が多いです。 その場合「人は自分が何もしていないのに急に怒り出す怖い動物だ」と考えます。無邪気な子犬が人を怖がるようになる原因です。

人間側のカン違いは、「この場所でおしっこをしてはいけない」ということを教えているつもりでいること。でもこのやり方では、絶対犬には伝わらない。 こうしてお互いがお互いを誤解して進んでいくのでうまくいくはずがないわけです。
こんな風にちょっと考えただけでも罰を使うとカン違い~弊害が出てくることがわかります。

もちろん専門家は罰を使ったトレーニングをすることもあります。でもそれを行うために、次の様々な制約があることを知っています。そしてそれを注意しながら適切に行なっています。読んでわかると思いますが、普通の飼い主さんにはとうてい適切に行えません。

 1. やめて欲しいと思っている行動をしたら1秒以内に罰する 
 (24時間 犬についていなくては難しい)

2. やめてほしい行動をした時は すべて罰しなくてはいけない。 
  罰したり罰しなかったりすると その行動が増えてしまう
 (同じく24時間 犬についていなくてはならない)

3. 罰は弱すぎれば効果がないし 強すぎれば怖がらせてしまう。いつも適度な強さが必要であり、
  適度の強さも日によって変わってきたりする。
 (自分の犬の適度な強さって誰が教えてくれるの?)

 4. 罰の強さが適切でも 何回も使うことによって体に
  悪い影響が出ることもある
 (チョークチェーンによる気管傷害など。)
 ※驚くことに犬は首吊りをしても何の害もないと
  思っている人がいるようです。
  犬も人も生き物としての基本的な仕組みは同じです。
  あなたは首に輪をかけられて引きずり
  回されても、何の痛みも感じないでしょうか?


5. 罰によって恐怖を感じると 似たものが恐怖の対象となりやすい。
 (棒でたたかれると、細長いものが怖くなる)

6. 罰から逃れるために攻撃行動になりやすい。 
  もともと攻撃行動があった場合 さらに攻撃がひどくなる
 (罰することにより 人に咬みつく犬を作ってしまう)

7. 罰する人が「怒りの感情」を持っていた場合、罰によって怒りが減るという快感を得やすい。
  それによって悲しいことに、人はまた犬を罰したいと思うようになる場合がある。

8. 罰では「こうしてほしい」という行動を教えることはできない。
 (ペットシートでおしっこをする という好ましい行動を教えられない)
             ※アメリカ獣医動物行動学研究会のコメントを抜粋 加筆

 これを知った上で それでも罰でしつけたいと思う人はいないでしょう。普通に生活している人では不可能だと断言してもよいからです。あなたは一日中犬のそばにいる専門家ではありません。

ではどうしたらよいでしょうか。
普通の飼い主さんがいちばんやりやすく効果的なやり方が「ほめてしつけるやり方」なのです。同じことを教えるのに 人も楽しく犬も楽しい。
そんな方法があるのにお互い不快な思いをするやり方でしつける必要はありません。さらに「ほめてしつけるやり方」は罰を与えるやり方では教えることのできないどうしたらよいかを犬に教えることができるという大きなメリットがあります。

もちろん罰を全く使わないわけではありません。生活の中では必要な場面もあります。
覚えておいてほしいこと、絶対にやってはいけないのは「体罰」です。

【まとめ】

専門家ですらむやみに「罰」は使いません。
~なぜなら「罰」を使ったしつけは 多くの弊害と隣りあわせだから。

オペラント条件づけ(オペラントじょうけんづけ、operant conditioning、またはinstrumental conditioning)とは、報酬や嫌悪刺激(罰)に適応して、自発的にある行動を行うように、学習することである。行動主義心理学の基本的な理論である。

本文:獣医師 石川安津子




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