犬のヘルニアを治す、癒す | Life with My Dog 犬と暮らす
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犬のヘルニアを治す、癒す


序章)犬が突然動かない

前日までは元気に走り回っていた愛犬なのに突然動かない。それ、ヘルニアかもしれません。
ヘルニアは、怪我でしょうか。少し違うようです。ヘルニアは犬種によってなりやすい傾向があるからです。

 

ヘルニアにより長期ゲージレスト中



この記事では獣医さん解説によるヘルニアの仕組み、なりやすい犬種、注意することで回復に大きく差が出る大切な知識を。さらに実際にヘルニアを発症して驚異的な回復を遂げた、あるフレンチブルドッグさんのエピソードをご紹介します。

まずはさっそく、「犬と暮らす」監修の獣医師、石川先生にヘルニアについて解説していただきましょう。

 

1)ヘルニアとは?

「はい。まず最初にここで触れるヘルニアとは「椎間板ヘルニア」という意味だと思ってくださいね。そもそもヘルニアとは「体の中にあるものが正常な場所から脱出した状態」のことをいいます。他にも「鼠径ヘルニア(脱腸)」とか「臍ヘルニア(でべそ)」など聞いたことがあるかと思います。

では椎間板ヘルニアとは何がどこから脱出してしまったのでしょうか

それは、背骨と背骨の間にあるクッションのような役目をしている椎間板、その椎間板の中身が飛び出てしまった状態のことを指します。問題なのは背骨の横を太い神経(脊髄)が通っていることで、それを飛び出た部分が刺激しているから激しい痛みがありますし、ひどい場合は麻痺が起こります。犬の場合腰の椎間板のヘルニアが多いのでこの場合の麻痺は後ろ足や排尿の麻痺になります。その他首の椎間板ヘルニアも見られます。


2)犬のヘルニア症状別「グレード」とは

では、犬の腰椎の椎間板ヘルニアになった時はどのような症状があるのでしょうか。
動物病院のお医者さんはつぎのようなグレード分けをすることが多いです。

グレード1:背骨の痛みのみ

グレード2:後ろ足の不全麻痺(脱力しているがある程度動かせる状態)よろけながらも自分で歩くことができる 

グレード3:後ろ足の不全麻痺で脱力がひどく足を動かせるが歩くことはできない

グレード4:後ろ足が完全に麻痺して動かせない表面をつねっても痛くないが深い部分の痛みはある自分で排尿できないで、おもらしをする

グレード5:後ろ足が完全に麻痺して動かせな表面だけでなく鉗子で足を強くつまんでも痛くない自分で排尿できないで、おもらしをする

 

椎間板ヘルニアの症状は徐々に現れることもありますが、多くは突然起こることが多いので飼い主さんはびっくりすると思います。 
ある朝起きたら突然歩けなくなっていた・・ということもよく聞きます。
上記のような症状が出たら一刻も早く愛犬を動物病院にお連れいただくことをお勧めします。手術適応の場合、時間が勝負ということもありえます。」

確かに、冒頭でご紹介した主宰の愛犬アランは、全く動こうとしていませんでした。
ただ獣医さんに会ったときに、よろけながらも少しだけ歩いたのです。だからそのとき診ていた主治医は「ステージ3になりかかっている」と診断されたのでしょう。

「フレンチブルドッグは、ヘルニアになりやすい」
そう主治医は言いました。
犬種によって、ヘルニアになるやすい犬がいるというのです。

ご自分の愛犬がヘルニアになりやすいかどうかご存知ですか?
石川先生の解説を続けます。

 

3)ヘルニアになりやすい犬種


「次に椎間板ヘルニアになりやすい2タイプの犬種についてお話しします。

 

(A)  若い頃からなりやすい遺伝子を持つ犬種

「軟骨異栄養性犬種(なんこつ いえいようせい けんしゅ)」って聞いたことがありますか? 難しそうな名前ですが思いっきり簡単に言うと、

骨になる予定の軟骨がうまく成長できなくなる遺伝子を持つ犬種のことです。

犬は人間が様々な姿形に作ってきたということはご存知だと思います。本当に多種多様な形をした犬がいます。そしてその中で足の短い犬種は、足の軟骨がうまく育たなくて骨になれず短くなってしまっているのです。そしてまずいことに足の骨だけでなく背骨の椎間板にも影響があって、若い頃から椎間板が変性してきます。そのためにヘルニアになりやすい犬種・・・それが軟骨異栄養性犬種です。

足の短い犬だけでなく、無理して(?)小さくした小型犬も含まれています。

軟骨異栄養性犬種

ミニチュアダックスフント
ウエリッシュ・コーギー
シーズー
ビーグル
フレンチブルドッグ

もっといろいろな犬種が該当しますが、上記の犬種が一番ヘルニアを起こしやすいというデータがあります。よくミニチュアダックスは胴が長いから負担がかかってヘルニアになりやすいといわれますが、実は胴が長いのではなく、足が短いため胴が長く見えるだけなのです。

だからダックスフントもコーギーも胴が長いからヘルニアになりやすいのではなく、遺伝的に若いころから椎間板が変性するのでヘルニアになりやすいのです。特に3~7才ころ腰のヘルニアになりやすいといわれています。その他ビーグルは若い時に首のヘルニアになりやすく、シーズーは高齢になってから首も腰も両方のヘルニアになりやすいというデータがあります。

 

(B)  年をとると椎間板が変形しやすい犬種

さて実は犬の椎間板ヘルニアにはもう一つの型があります。先程お話しした椎間板が脱出して神経を圧迫するものを人ではHansenⅠ型といいます。

これに対して脱出はしていないけれど年を取ることによって椎間板が変形して神経を圧迫するものをHansenⅡ型といいます。老犬になってから起きやすい椎間板ヘルニアともいえますね。この場合のなりやすい犬種には中~大型犬も含まれます。

ヘルニアHansenⅡ型になりやすい犬種

ヨーキー
マルチーズ
Mピンシャー
柴犬
ラブラドール・レトリバー
ゴールデン・レトリバー
シベリアン・ハスキーなど

ヘルニアには遺伝的に若いころから発症しやすいヘルニアと、老犬になってからなるヘルニアがあるというわけです。」

獣医師 石川先生によると、ヘルニアは若い頃に発症しなくても老犬になってからも発症する場合もあるということですね!
ヘルニア予防を含めて、老犬介護全般についても知りたいご家族は、ぜひ「老犬介護 その時のため何を備える?」も併せてお読みになることをお勧めします。

 

4)事例:ヘルニアのステージ4を克服した家族




手術直後のキララちゃん
(仮名 当時3歳。写真ご家族提供)

(A) 第一の決め手はスピードだった

ここで、ヘルニアで一時足が麻痺していたものの、手術を経てママさんはじめご家族の諦めない介護で回復した、フレンチブルドッグの女の子、キララちゃん(仮名)のお話をご紹介します。
キララちゃん(当時3歳)のヘルニア発症は、真冬に入った1月のこと。ある日突然失禁し動けなくなりました。

元々動きが激しく、腰を傷めたら怖いなと思って、ソファとか階段に気をつけていたそうですが、実際はケージの中でヘルニアを発症してしまったと言います。夜だったので、翌日まで様子を見たものの、明らかに下半身に麻痺がでてしまっていたので、病院へ。そのまま検査と緊急手術となったそうです。

ヘルニアのステージは4。もしかしたら歩けなくなるかもしれないと言われ、ママさんは覚悟をされたそうです。

しかし、ヘルニアの手術から1週間で退院。その頃には立ってお出迎え出来るとこまで回復、戻ってきてからも持ち前のガッツでコルセットをつけてリハビリを頑張ってくれたと言います。

現在は、ヘルニアにはほとんど気づかないくらい歩いたり走ったりできるようになったキララちゃん。リハビリは、自宅でやっていたそうです。ママさんは、先生に聞いた通りにリハビリを続けました。そして、キララちゃんも楽しんでやってくれたそうです。

ヘルニアと診断されて即手術をしたことが元気な今に繋がっている!と、ママさんは力説します。


リハビリ中のキララちゃん
(仮名。写真ご家族提供)

(B) 肉球が地面につけられない、からのリハビリ

写真、黒いのがコルセットです。 普通の立ち姿に立たせてから、一定の力で下半身に刺激をしながら鍛えていたそうです。
前出ヘルニアの術後の写真では、下半身がぐにゃぐにゃだったのが分かりますか? 足が定位置に向かず、肉球を地面につけられるかというところからスタートでした。

ヘルニアから退院までの1週間ほどで、ぐにゃぐにゃだった足は立たせたら立つように。入院中は面会に行っていましたが、病院の先生達がリハビリしてくださるのがメインだったそうです。

退院してから十日ほど経つと、普段のスタイルでトイレができるようになったという、驚異的な回復力を見せたキララちゃん。

ヘルニアからの回復を目指し、リハビリをする時間と休ませる時間を効果的に使ったそうです。
ママさんが仕事で留守にしている日中はケージレストで、朝と帰ってからはコルセットをつけて出来るだけリハビリをやったそうです。

さらに、なるべく足をさすったり負担がかかる前足を揉んだりと惜しみなくキララちゃんの回復を信じてケアし続けたママさん。それでもキララちゃんはコルセットをつけると楽になるようで、他のワンコたちと遊びたがります。なので、別室に隔離してのリハビリだったそうです。

(C) 遊びたがるキララちゃんに休憩を

キララちゃんはもともと保健所からの保護犬です。保護した直後のヘルニアだったとのことで、推定で3歳のときです。現在は、日常生活で何も制限はないそうです。ただ、お散歩の時間やスピードによっては後ろ足が置いてけぼりになるときはあるとのこと。おてんばなキララちゃん、気持ちがはやって足が付いてこない感じです。 そんな時は、休憩してしばらく座ると落ち着きます。

ママさんの感覚では、キララちゃんの回復は、ヘルニアが出る前の80%くらいだと言います。



5)ヘルニアで歩けなくなっても最善を尽くして!

ヘルニアになりやすい犬種としてフレンチブルドッグはよく挙げられます。
見た目の可愛さで迎えてから、後で実は発症しやすい病気を知る。私たち家族に思い当たることが多いのではないでしょうか。フレンチブルドッグの場合はそのほかには皮膚炎になりやすい、チェリーアイになりやすいと言います。

保護犬だったキララちゃん。前の家族に手放された過去があります。
「手のかかることも承知でフレンチブルドッグをはじめとした犬種を理解することが大切」
と、ママさんは言います。

ヘルニアで麻痺が出ても、諦めず家族でできることがあると知ってもらいたい!
そんな思いから、キララちゃんのストーリー掲載をママさんは快く承諾してくださり、写真も提供してくださいました。

もしも、歩くことを取り戻せなかったとしても、愛犬は愛犬です。それまでと変わらない、とキララちゃんのママさん。
実際にヘルニアなどで後半身が麻痺しても、車椅子で元気に楽しく走り回るワンコさんを多く知っています。


ご家族の愛情。愛犬はたとえ後ろ脚が麻痺してしまっても、大好きな家族の愛情に包まれて笑顔で幸せに暮らしていけるのです。

また、石川先生の臨床経験から下で述べられていますが、1年以上かけてリハビリを続けながら少し少し動きが戻ってくるワンコさんもいます。最近ではリハビリ用のプール施設なども少し少し増えています。

今は元気な愛犬を守る家族としては知っておきたいこと。
ヘルニアからの回復「決め手は早い処置だと思います」
と、キララちゃんのママも力説しています。

愛犬が動かない!?と思ったらヘルニアを疑ってくださいね。たとえヘルニアではなかったとしても、何か重大な疾病!でもすぐに処置をすれば回復するタイミングかもしれません。
もしも大事に至らなかったら、「なんでもなかったね」で安心することができるのですから!

今ではキララちゃん、仲間のワンちゃんたちと元気に遊びまわっていると言います。
ママさんは危険を最小限にしたいので、全面カーペットとソファの撤去をし、なるべく興奮しないように生活しています。 今のところ大きな故障もなく元気いっぱいでいてくれています!とのことです。

滑る床、ソファの飛び降りはヘルニアの原因

6)犬のヘルニア グレード1〜2で気をつけたいこと

さて、このように、ステージ4あるいはそれ以上だと一時的にせよ犬の足が麻痺するようです。一方で、ステージ3以下で手術まではしなくていい場合に気をつける点は何でしょう。

元気になっても3ヶ月はゲージレストが鉄則

主宰の愛犬アランはヘルニアの手術までは必要ではありませんでした。それはグレード3になりかかっていたものの、当時3歳と若かったため1週間完全に運動をさせずに休ませたことで、かなり回復したからです。
それでもひたすらゲージレストの継続です。3ヶ月と言われました。

コルセットで元気になったキララちゃんのように、アランも回復してくると散歩に出せ!出せ!攻撃が始まりました。ヘルニアはもう治ったのではないか、そう思ってしまいます。

ところがこれが落とし穴。つい散歩に連れ出したり、ゲージから出して運動させてしまうと…簡単に再発してしまいました!石の上にも3年、いや3ヶ月です。


石川先生:「ケージレストの時は飼い主様の苦労は並大抵ではないと思います。犬は痛くなくなれば動きますから。でもそこは気をつけて!」


7)死に至る怖い病気 脊髄軟化症


まとめに入る前に。
重度の場合は麻痺が出てしまうヘルニアについて、これまで説明をしてきました。
ここに加えて、ヘルニアが原因となりうる脊髄軟化症という死に至ってしまう病気についても触れたいと思います。

脊髄軟化症とは犬の脊髄が変性して軟化してくる病気です。

最初に障害が起きた場所から上(頭の方)にも下(尻尾の方)にもだんだん変性が進んでいきます。犬の体の麻痺が上に進む場合、瞬膜(目頭から出てくる薄い膜)が出る、呼吸が苦しくなる、前肢の麻痺が出るとだんだん進み、最後は呼吸する筋肉が麻痺するため死亡します。

犬の前肢の麻痺が出る前に手術をすることで、数が少ないですが命を取りとめた症例があります。同時に下半身にも症状が進み膝蓋骨反射がなくなる、肛門が開く、後肢のマヒが起こり、1週間で死んでしまうことが多いとても怖い病気です。

前述にあったように、犬の前肢に麻痺が出る前に手術をすることで一命を取りとめられたという報告はありますが、残念ながら治療法は確立されていません。

ヘルニア以上に急いで動物病院での受診をお勧めします。


8)犬のヘルニアまとめと、人間との違い

最後にもう一度、石川先生によるグレードごとの見解をまとめます。

グレード1の場合
安静と内科的な治療(お薬を飲むこと)でよくなる場合が多いです。ただしおっしゃるように飼い主様はきちんと先生の指示を守ってもらうための頑張りが必要となります。

グレード2の場合
グレード1と同様ですが、CTやMRI検査・脊髄造影などの実施をお勧めすることもあります。特に薬物療法やケージレストで改善が見られない・悪化した場合は検査を受けたほうがよいでしょう。それによってどの程度椎間板が突出していて神経を圧迫しているか判断することができるからです。

グレード3以上の場合
検査をお勧めすることが多いです。 飛び出ている部分が中等度以上の場合、内科的に処置だけでは再発する割合は30~60%といわれ、手術をするとよくなる確率が高いからです。

グレード5の場合
完全に後ろ足が麻痺しておしっこを漏らす状態では深部での痛みも感じなくなって(鉗子で思いっきりつまんでも痛くない)から、48時間以内に手術しないと麻痺が残る確率が高いと言われています。おかしいと思って獣医さんに行って診断がつくまで下手をすると24時間以上経ってしまうのですから、まさに時間が勝負だと思ってください。

そしてキララちゃんの例のように術後のリハビリも重要です。

石川先生:「最近は獣医学の分野でもリハビリテーションについて様々な方法が考案されています。そしてリハビリは飼い主様が行うことが肝心だと私は思っています。なぜなら犬にとって飼い主様の愛情が何よりだからです。マッサージや代替療法(鍼灸・Tタッチなど)主治医の先生とご相談の上続けていただければと思います。

手術後すぐに回復するコもいますが飼い主様が1年上ゆっくり愛情を込めてリハビリすることで歩けるようになるコもいます。リハビリの専門家やインストラクターの方との二人三脚で、あきらめず愛情をもって接してあげられるとよいですね。」

さて、ここまでヘルニアについてなりやすい犬種や治療についてご紹介して来ました。
ヘルニアを予防する、ヘルニア再発を予防するために普段の生活からちょっと気をつけるだけで大きな差が出るオリジナル記事「愛犬を縦に抱っこしていませんか?」で、愛犬を痛みと麻痺から守りましょう!

 

9)石川先生の追記:人のヘルニアは麻痺が起きない

「実は人と犬では椎間板ヘルニアの症状がちょっと違うって知っていましたか?

そう、犬は椎間板ヘルニアで下半身が麻痺して歩けなくなったという話を聞きますが、人の椎間板ヘルニアで下半身不随・歩けなくなったという話、聞きませんよね。

これは背骨の隣を通っている太い神経(脊髄)の作りとヘルニアを起こしやすい場所が違うためです。

犬では太い神経(脊髄)は背骨の最後の部分まで太いのですが、人では腰の骨になると細くなります。(馬尾神経と呼ばれる) また犬は腰の骨の上の方(T11~L1といういい方をします)がヘルニアを起こしやすいのですが、人は腰の骨の中間くらい(L4~L5)で起こしやすいといわれています。

人のヘルニアでは脊髄を圧迫するのではなく神経を圧迫するだけなので、症状としては痛みだけで麻痺には至らないというわけです。」

 

本文:「犬と暮らす」武田裕美子

獣医学記述と監修:獣医師 石川安津子

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