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Life with My Dog 犬と暮らす

犬に咬まれた!その怪我は見過ごせない深刻さ

「飼い犬に手をかまれる」という諺があるように、犬が咬みつくのは周知のことです。
ところが、自分の犬に咬まれたことがないと、すっかり忘れてしまうようです。


一口に「咬みつかれる」と言っても色々なレベルがあるそうですが、身を以てそれを知った場所は、週末のボランティア先でした。当サイトの「深刻な行動問題」でも触れていますが、深刻度の分かれ目とは、
犬の歯が皮膚を破って出血するかどうかではないかと思います。

さて、主宰の愛犬は歯を当てることはあっても、出血もしないし皮膚が破れるほどではない、甘咬みレベルです。それがすっかり当たり前になってしまっていたある日、シェルターに収容されていた保護犬に、したたかに咬みつかれる、という経験をしました。

この記事は、犬の問題行動ではなく、ヒトが犬にしたたかに咬みつかれると、どうなってしまうのか、何が起きるのかに焦点を当てて進めたいと思います。
犬に本気咬みされることが、いかに危険で絶対に避けなくてはならないのか、警笛を鳴らしたいと思います。

私に咬みついた犬は、中型犬。愛らしい10キロ以下のアメリカン・コッカースパニエルでした。
その経緯は、次の通りです。

  1. いきなり手に喰い付いて、離れませんでした
  2. 顎の力を入れたまま、しばらく私の手に上半身ぶら下がっていました
  3. 私は手を引かずに、放すまで待っていました
  4. ついに犬が離れた時、大きな傷口がパックリ開いて肉まで見えていました

不思議と、痛みを全く感じませんでした。ただ、見た事がない光景(傷口)を、「これは夢だろうか」という気持ちで呆然と眺めていたのを覚えています。周囲には誰もいませんでした。

穴が何箇所か開くレベルをはるかに超えた、大きくパックリ開いたギザギザの傷口ひとつ。

はっと我に返って
明日から仕事はできるのだろうか
と思いました。その瞬間、今すぐ治療しなければ!と気持ちが強くなりました。

見ると犬はすっかり大人しくなっていて、どうやら自分が何をしたかわかっているようでした。素直に従ってついてくる犬を連れて、シェルターに戻りました。
日曜日はどこも休診でしたが、親身に仲間が救急診療まで連れて行ってくれました。

診療所ではすぐさま看護師に消毒をしてもらいながら、次の質問をされました。

  1. 「犬は狂犬病の予防接種を受けているのか?」
  2. 「あなたは破傷風の予防接種を受けているのか?」

ボランティアをしていたシェルターの犬は狂犬病をはじめとした予防接種を一通り受けるまで収容されませんから、1番目は大丈夫。問題は2番目の質問。
私は破傷風の予防接種を受けていませんでした。

外科医に傷口を診てもらった後、傷口の奥まで深く完璧に消毒をしてもらう処置をしました。この時、かなり痛いから局所麻酔を何箇所か打ちますよ、と言われて診察台に横になりました。

すると、上から外科手術用のランプに照らされ、傷口だけ残して白い布で覆われ、
「まるでこれから外科手術ではないか」
そう思いました。この頃まで傷口の痛みは全く感じておらず、頭に霧がかかっているような感じでした。

次の瞬間、麻酔注射で初めて激痛を感じました。それは耐え難い激痛で、2箇所打たれましたが大人でも耐えられない痛さでした。麻酔が効いたので、大きな傷口の消毒はどれだけ深く洗浄されても無痛でした。

局所麻酔は、これがもし子供だったら、幼児だったらどれだけ痛さのためショックを受けるだろう。そう思うくらい痛かったです。

今度は手を裏返し、掌に犬歯が刺さったことで空いた細く深い穴の消毒です。局所麻酔は耐えられそうもないので断りました。そして消毒が始まった途端、人生でこれまで経験したことがないほどの激痛を感じました。

この消毒と前後して、破傷風の予防注射を打ってもらいました。これも痛かったです。しかも期間を開けて後日、何度か打ってもらいに病院に通いました。

犬に咬まれるということは、このように大怪我なのです。

幸い、神経に当たっていなかったため手は自由に動き、麻痺も何も起きませんでした。
それでもその深い傷と犬の唾液が持つ菌が体内に入るだけのことでも、大怪我なのです。

咬まれた日の晩、右手は赤く倍近くの大きさになるまで腫れ上がり、微熱が出て、よく眠れませんでした。咬まれた翌日から毎日看護師に傷口を深く洗浄して消毒してもらうために、仕事前に病院に通はなくてはなりませんでした。

一般の怪我による深い切り傷だけではこうなりません。洗浄と抗生物質で闘っても、それだけ犬の唾液に含まれる菌は強力なのです。顔を洗うのもシャンプーも左手だけ。仕事もパソコンを打っては休み、でした。

最終的には、経過を見た後で、結局5針縫うことになりました。この時の傷は、1年半経った今も残っています。

愛犬の主治医である獣医さんは言葉を選ぶ配慮のある方ですが、のちにこう言われました。
「縫う程度で済んで、幸運でしたね。」

今思い返してみると、咬みつかれた場所が右手ではなくて首だったら、
最悪、私は命を落としていたかもしれません。

その時の咬み犬は、それは美しい10キロ以下のアメリカンコッカースパニエルで、決して大きな犬ではありませんでした。
それでも、成人を死に至らせるほどの力を持っているのです。

このアメリカンコッカースパニエルは、ボールに異常な執着心を持っていました。ボールを取り上げた私の右手にいきなり咬みついたのです。これは、私が悪かったことです。

犬は、以下の段階を経て攻撃レッドゾーンに入ると言いますが、
実際は一瞬の出来事です。

このアメリカンコッカースパニエルは子犬の時ペットショップから買われました。
「犬は厳しい体罰で主従関係をわからせるべき」
と信じるお父さんからひどく体罰を受け続け、やんちゃな盛りなのにお父さんに怯える子犬だったそうです。そしてその反動で、子供に咬みつくようになったために、棄てられた犬でした。
そう、この犬は悲しみとストレスでいっぱいの犬だったのです。

大事なまとめに入る前に強調したいのですが、保護犬イコール咬みつくとは結びつきません
私に咬みついたのは、元々は純血種の家庭犬だった犬です。このご家庭が暴力を使うことなく優しく接していたら、咬み犬になってしまう可能性は極めて低かったと思います。

この咬傷による大怪我の経験から、私がお伝えしたいのは以下の3点です。

  1. 犬は咬みつく動物です。10キロ以下の中型犬でも殺傷能力を持ちます。
  2. 咬傷はただの大きな切り傷にあらず。犬の唾液が傷口から体内に入ったらすぐさま洗浄しないと、腫れ上がり熱が出るほどの菌が含まれています。
  3. 以上を踏まえて、あらゆる警戒心を総動員して咬傷事故を防がなくてはなりません。特に子供と高齢者には!

お子様には、たとえ知っている犬でもむやみに近づかないように注意してください。飼い主さんに「触っていいですか?」と聞いて、絶対に大丈夫との回答を得ない限り近寄らないようにしてください。

そして…もしあなたの犬が、流血するほど咬みつく犬だったら、すぐに体罰を用いないドッグ・トレーナーか行動診療の専門獣医のところに行ってください。これまで一大事になっていなくても、それは幸運なだけかもしれません。

*主宰が前職の香港赴任時代にボランティアをしていた経験を基にしていますが、日本でも一度、保護猫に咬みつかれて外科医に行ったことがあります。この記事の傷に比べればかなり軽傷でしたが、日本の外科医さんも抗生物質を出してくれました。

他のボランティアにも咬みついていたこのアメリカン・コッカースパニエルはその後、厳選された里親(問題行動を持つ犬の経験がある家族)の元に譲渡されました。

 

本文:犬と暮らす主宰 武田裕美子

監修:獣医師 石川安津子




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